- 作者: エイミー・カウフマン,ジェイ・クリストフ,金子浩
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2017/09/21
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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ケイディが恋人エズラと別れた日、宇宙船団により彼らが住む辺境の惑星は侵攻を受けた。星際企業戦争に巻きこまれたのだ。 人々は3隻の宇宙船で脱出をはかるが、最寄りのジャンプステーションまでは半年以上航行する必要がある。いずれ追手の敵戦艦に追いつかれてしまうだろう。さらに、船内に危険なウイルスが蔓延していると判明する。そのうえ、船の人工知能が乗員に危害を加えようとしていた…… メール、チャットや軍の報告書、復元された文書ファイルでつづられた異色SF
新しい読書体験への出会い
ストーリーや設定の面白さはあとで書くけれど、やはりまずはその目を引く装丁から。
【すごい本】
— 早川書房 翻訳SFファンタジイ編集部 (@hykw_SF) 2017年9月11日
『イルミナエ・ファイル』のゲラの冒頭のところをちら見せしますね。とりあえず、全編こんな感じ。というか、もっとすごくなります。
今後10年は『あのスゴイ本』で通じるモノを作ったという、ね。そういう気分です。https://t.co/Bm3dgtOyFb pic.twitter.com/w9PUDL30Im
「復元された文章ファイル」の形式で綴られているため、様々なフォーマットの文章が登場する。本文中に登場するメインの3隻の宇宙船の中で取り交わされるチャットやメールでも、おそらく利用しているソフトウェアが異なることから送信者と受信者の位置が微妙に異なったりと芸が細かい。その他、艦内に配布されたという設定の告知ポスターやメール、広報など様々な文章が登場し、読む者を飽きさせない。
さて、こういった「過去に起きた事件」を読者が追体験する方法としては、日記形式による文章がある。H・P・ラヴクラフトやコズミック・ホラー体系の作品の中でよく見たように思う。ただし、日記形式の作品はあくまでも日記の書き手の主観的な事件の進行の追体験となる。書き手が知らないことを読者は知らないし、それを利用したトリックや事件を楽しむことができる。しかし、本書は様々な第3者の視点を含めて発生した事件を追うことになる。今、船の中で何が発生しているのか、知らないものもいれば、正しく情報を知った上で隠蔽するものもいる。星を追われた彼らの心境を推し量りつつ読み進めていくことになる。
復元されたファイルであることから、読者が追いかけるこの事件は何らかの結末を迎えたことが明らかな事実として読者の前に現れる。普通、読書には終わりが訪れる。本が完結しストーリーが完了すれば終りを迎えるし、ページをめくるごとに結末に近づく。しかし、この本は完結をした事件を読者は追いかけることになる。そのため、ほんの結末の到来と事件の全貌を知るタイミングが訪れることを普通の本を読む以上に意識して読むこととなった。いつもとは違う新しい読書体験をすることができたように思う。
盛々のSF的設定
ハードSFと言うには作中に登場するギミックの理論的説明は行われていないし、描画されていないと思う(設定がどうなっているのかはわからないけど)。どちらかと言うと世界観設定が面白い。
- おそらく未来(はるか昔、遠い銀河の彼方でも問題はないかもしれないが
- 星の開拓を行う企業が非常に力をつけ、星の統治を行ったり軍隊を組織する世界
- しかし、それでも(たぶん)地球を中心とする統治する仕組みがある世界観
- ちなみに、宗教を捨てたりはしていない
こういった世界の中でティーン・エイジャーは恋をして振った振られたといった話をしている。この上で、発生する大きな事件はあらすじにあるように「ライバル企業軍による惑星への攻撃」やその中で利用された「生体兵器をトリガーとするウィルスの蔓延」、そして攻撃のときにダメージを受けた「AIによる反乱」だ。命からがら星を脱出した3隻の船の中で人々は追跡を続ける敵の戦艦と、暴走するAIと正体不明のウィルスの恐怖に怯えていくのだ。
月々と発生する事件、矢継ぎ早に起こる状況の展開にずっとハラハラしっぱなし。時間のあるときに一気に読むのも面白いと思う。
結構分厚い
今朝Twitterでみたイルミナエ・ファイル買ってみました。デッドスペース勢におすすめしたい一冊。厚さが辞典並です pic.twitter.com/TyJB5UjK6E
— つかさ (@kadoya_tukasa) 2017年10月18日
定価で4,000円を超えるボリュームになっている。多分、これ普通の小説の装丁で書くと文庫本くらいの大きさになるんだろうけれど、ファイルの体裁を取っていることから良くも悪くもストーリーに対して遠回りをしていると言える。普通の小説では描画されないような領域の部分(例えば、戦闘で死んでしまった数千人に及ぶ!被害者のリスト)と言った情報が盛り込まれているのだ。そして、それゆえに読者はただの読者から、いつかどこかで発生した事件を追いかける調査員のような気持ちとなり本の世界へと入っていく。
今までとは一味違った読書体験を経験してみたいのなら本書はオススメ。