「ゼロ・トゥ・ワン」を読んだ。
この感想は空港から移動するバスのなかで10分くらいで書いた。
- 作者: ピーター・ティール,ブレイク・マスターズ
- 出版社/メーカー: NHK出版
- 発売日: 2014/09/25
- メディア: Kindle版
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本の中に登場する「7つの質問」は、この本が説明しようとしていることをかなりコンパクトに纏めたものだと思ったので、本を読んだちゃんとした感想や考察という意味で記録を残す。
7つの質問
13章「エネルギー2.0」に登場する。
- エンジニアリング - 他社より10倍以上の差があるテクノロジーを持っているか
- タイミング - そのビジネスを始めるのに適切な時期か
- 独占 - 大きなシェアが取れる小さな市場からのスタートができるか
- 人材 - 正しいチーム作りができているか
- 販売 - プロダクトを作るだけではなく、それを届ける方法があるか
- 永続性 - この先10年、20年と生き残るポジショニングができているか
- 隠れた真実 - 他社が気がついていない、独自のチャンスを見つけているか
13章は2010年にアメリカで起こったクリーン・エネルギーバブルの中でなぜ多くの企業が潰れていったのか、なぜ同じくらいのタイミングでビジネスを行ったイーロン・マスクのテスラ・モーターズは今でも大きな企業なのかをこの7つの質問に対してどういうアクションを行っていたのか、という観点から著者の見解を述べている。
この7つの質問について本の中ではなぜこの質問を行うことが正しいとされているのか、そして我々がビジネスを行うときにこの質問が本当に役に立つのかを考えてみる。
エンジニアリング
なぜテクノロジーが大切なのか。第1章「僕たちは未来を創ることができるか」では「ほとんどの人はグローバリゼーションが世界の未来を左右すると思っているけれど、実はテクノロジーがはるかに重要だ」としている。この世界の資源は限らているため、新たなテクノロジーがなければグローバリゼーションも起こり得ないし、進歩もない。
また、2章の「1999年のお祭り騒ぎ」ではライバルのものを改良して、既存顧客のいる市場から始めると、収益が消失するとしている。
結局他の企業を大きく引き離し市場を独占するためには他の企業が実現できていないテクノロジーの実現を行う他ない。
タイミング
5章の「終盤を制する」ではファーストムーバー・アドバンテージを狙うよりも最後に市場に参入して大きく成長すればいいとしている。先に市場に入り込むほうが他にだれもいないことから市場を独占しやすくなるファーストムーバーは目的ではなくて手段であることを間違えないようにと言っている。
いつを以って、ベストなタイミングと言うべきなのかは難しいのかもしれないが会社の中で準備が整っていないのにファーストムーバーを無理に取りに行くことは意味のない行為である点は注意したい。
独占
4章の「イデオロギーとしての競争」で「競争すればするほど得られるものは減っていく」と述べている。90年代に発生したオンラインのペットストア市場をめぐる戦いでは勝者はペッツ・ドットコムだが、ネット・バブルの崩壊を受けてペッツ・ドットコムも破綻してしまった。競争の中で企業はライバル企業にのみ注意をしてしまう。オラクルとインフォミックスはほぼ個人攻撃といえる広告を立ててお互いに罵りあった。
競争の中で消費者は不在となり、敗者には破綻が、そして勝者には負債が残る。
それなら、しっかり市場を独占して消費者のためのものを作りたい。
ただし、投資家や政府は独占を好まない。そのため、市場の独占に成功した企業は自分たちが独占をしていることを秘密にしたがる。
人財
第10章「マフィアの力学」の中で「職場にいる間に長続きできる関係が作れないなら、時間の使い方を間違っている。投資に値しない」と述べている。スタートアップに必要なのは職場を超えて良好な関係を築くことができるようなメンバーだ。
必要なメンバーを「共謀者」とも言える。筆者は自分たちの「ペイパル・マフィア」のことを指して「マフィアのようでも良い」と言った。ボスとなるCEOがいてその人の考えやビジョンに共感をした人々でメンバーは構成されているべきなのだ。
これは全くそのとおりだと思った。スタートアップに関して特に意見の不一致による空中分解の危機はすぐそこにある。だから自分たちの会社でも意見を出し尽くすようにして、不一致を抱えたまま日々を過ごさないようにしている。意見の一致や会社のビジョンに対する共感があるので、別の会社の待遇にそこまでそそられないという現状もある。
販売
エンジニアは営業やセールスのことを嫌う傾向にあると思う。有る事無い事を盛って盛って盛りまくって売上を上げても、消費者に対して誠実ではないような印象を持ってしまう。ただ、実際のところおたくでエンジニアでもコマーシャルの影響を受けている点については認める必要があると、第11章「それを作れば、みんなやってくる?」で述べている。
必要なのは作った製品を必要としている人の元に届けるためのチャネルだ。営業やセールスはそのチャネルの発見や構築に欠かせない。
マーケティングに関してはC2Cサービスの展開をしている人々であればかなり興味をもつだろう。ユーザーの行動を分析してその人が求めている所に売り込む。検索エンジンの広告がこれかな。
一方で大口の取引のためのセールスが必要であることも分かる。1つの商品の販売が何億円という売上を上げる場合では、顧客との良い関係を作り上げるために長い年月を掛ける必要があるかもしれない。それよりも規模の小さい数百万円の製品であれば適切な規模の営業チームをつくることが適している。
マーケティングとセールスの間にはデッドゾーンがある。中小規模の消費者向けにはコマーシャルを出すわけにはいかない。さらに営業マンを用意するにしても単価に対して見込み客の全てをカバーすることはできない。
販売について適切な戦略を考える必要はあるがデッドゾーンについて注意をする必要もある。
永続性
独占やタイミングの部分と被るけれど、ラスト・ムーバーになるような戦略を立てるべきなのだろう。他社とは大きく違う技術を持っていたとしても、他社が乗り入れてきたときの戦略をどうするべきなのか。
隠れた真実
隠れた真実を見つけること、それこそがその企業の単一のアイデンティティだ。第8章「隠れた真実」で隠れた真実が何なのかの解説を行っている。それは発見することが難しいものだが、近い所に到達不可能な疑問も存在している。どれだけ考えても解き明かすことのできない真実だ。宗教組織は「神の神秘」と言って到達不可能な謎が信仰の対象になる。
周りから見れば隠れた真実を求める人とカルトの宗教団体は紙一重と言える。
18世紀には世界地図に埋まっていない場所もたくさんあったしテクノロジーは大きく進歩していなかった。現在では隠れた真実なんてないんじゃないか?いつの頃からかそう考えるようになってきたが、書籍の中でなぜ人々がそう考えるようになったのかの解説があった。
確かに、物理的なフロンティアが無くなったのは原因の一つのようだ。それに加えてさらに四つのトレンドが世界を支配している。
- 漸進主義。子供の時から少しずつ順を追って学ぶことを教わってきた。そこから外れたことを学んでも評価されないしそれどころかマイナスの評価になる可能性がある
- リスク回避。 隠れた真実を見つけようとすることは間違えることだ。間違えを恐れる人は隠れた真実には到達できない
- 現状への満足。 社会のエリートとなって過去の遺産で暮らしていける人々は隠れた真実を見つけようとはしない
- フラット化。 グローバリゼーションが発達し世界中の人々が同じ市場で競争をするようになった今、世界の何処かで自分よりクリエィティブな人が課題を解決したのではないだろうかと考えてしまう。
このトレンドに支配されて隠れた真実の発見をしないのであればその企業にアイデンティティはない。
まとめ
ちゃんと時間をかけて感想を書くとこんな感じになった。一応、我々の会社もスタートアップだし新しいことをやろうとしているので、ここの質問を思い返してみたい。