@numa08 猫耳帽子の女の子

明日目が覚めたら俺達の業界が夢のような世界になっているとイイナ。

今日も読書感想文

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なんで解散してしもうたん・・・

吉村昭 空白の戦記

空白の戦記 (新潮文庫 よ 5-9)

祭場の雛壇には、白い布におおわれた骨箱が階級順にならんでいる。

それを見上げていた植野は、ふと意外なことを発見した。

整然と並べられた骨箱の傍らには、位牌と流れ旗がおかれていたが、その表面に、 故海軍一等水兵植野宣好之霊 と、自分の氏名が一階級進級した階級とともに記されているのを見出したのだ。 それは、自分だけでなく、生き残った僚友の氏名も一人残らず位牌にxx之霊と明記されている。

<中略>

植野は、僚友とともに流れ旗をおろし、骨箱も祭場から下ろした。そして骨箱をあけると、艇内におかれていた自分の手箱(私物箱)の中に入れていた時計や手帳などの身の廻りの品が出てきた。おそらくそれらは、艇がドック入りした後に回収されたもので、行方不明者のものとして遺骨の代わりにおさめられていたものにちがいなかった。

空白の戦記 「顛覆」より

空白の戦記、は短篇集だ。実際に起こった事故を元に描かれた「艦首切断」「顛覆」はいずれも自然の脅威の前に、当時最新鋭の軍艦が為す術もなく崩壊する物語だ。上記の引用は、「顛覆」の後半、タイトルの通り顛覆した水雷艇「友鶴」の乗組員があわや死亡したものと扱われるシーンだ。

吉村昭氏の作品は昨年の内に「戦艦武蔵」そして「陸奥爆沈」を読んだわけだが、いずれの作品からも今の常識感では考えられないような出来事が描かれている。

艦首切断、顛覆は太平洋戦争直前という情勢もあってこれらの事件は秘密裏に処理された。自然災害い対して日本の軍事力が敗北した事実を、諸外国に悟られない、そして国民に不安、不信を与えないためだ。面白いのは、その判断を現場の人間レベルで行っている描写があることだ。

夕霧、初雪艦首切断ハ、衝突ノ結果等トシテ発表セラルルヲ可ナリト認ム。右意見を具申ス

波によって文字通り艦首が切断されてしまった駆逐艦、「夕霧」と「初雪」は衝突し、損傷したものとすると偽ってはどうだろうかということだ。日本の国防を揺るがす大きな問題であるのだろうが、多くの怪我人、死者を出した大きな事件も「国防」の前にはもみ消されてしまう。

こう書くと人事のようだが、割りと個人レベルでもありえることで、不祥事とは隠したくなるものなんだなと思う。そう言った視線では、人間は得に成長をしていない生き物なんだなぁと言ったことを感じた。